2013年5月31日金曜日

動物たちの共生

 人と動物の共生について考えていると、わたしたちはついつい動物をすべてひとかたまりとして考えがちだということに気づきます。

 どういうことかというと、たとえばサイとライオンは別々の種で、それが同じ場所に住んでいるということは、共生あるいは住み分けをしているということ。たしかに食べるものが違うので、競争することもあまりないのですが。

 ライオンとシマウマを見ていると食べられる側と食べる側に分かれているように見えますが、ライオンもお腹がすいていないと、シマウマが近くにいても見向きもしないです。こういうところが欲深い人間とは違うような気がするのです。

 

 
 バッファロの顔にとまっているのは、オックスペッカー。体につくダニなどを掃除してくれます。オックスペッカーにとったら餌になるダニがいっぱいついているので好都合ですが、バッファロにとったら、不快な虫ですから、食べてもらえればうれしいばかりです。

 異種の動物がどうやって一緒にいるか、注目してみているとおもしろいです。

1.たくさんのシマウマにまぎれて、1~2頭のはぐれヌー
2.昼間、木陰で休むバッファロとサイ
3.グラントガゼルの小さい群れについていく、1頭のインパラ
4.たくさんのインパラについてく、1頭のハートビースト
5.バブーンの群れとともに移動する、ブッシュバック

などなど、いろんな組み合わせが。

 このあいだは、サイとキリンが鉢合わせするところをみましたが、まるで、人が人とすれ違う時に、無意識にふっとみちを譲り合うように、すれ違って行きました。キリンはちょっと怖がっていましたが。。。

 以前こんなことがありました。
国立公園職員の宿舎は、たいてい公園内のゲートの近くにあるのですが、ある日、4歳から6歳くらいの5人の子供たち(ケニア人)が、公園の中に散歩に入ってしまいました。たぶん冒険心から歩き始めたのだと思います。公園の中にはライオンやバッファロ、サイなどが生息しています。親たちは「子供がいなくなってしまった」「ライオンに食べられてしまったんではないか」など大騒ぎをして探したところ、1キロほど離れた違うゲートで保護されていました。みんな無事。話を聞いてみると、途中でバッファロの群れにあったり、とても楽しかったそうです。
 
 バッファロはすごく近くにいたそうですが、何もされなかったそうです。というのも、子供たちはバッファロに対して警戒心がなかったし、ましてや攻撃してやろうという気持ちが全くなかったので、バッファロも子供たちを襲うという気持ちにならなかったんだと思います。確かに、バッファロが他の草食動物やバブーンなどを襲っているところをみることはほとんどないです。

 野生動物たちは人間が危険であることを知っているがために、人間を襲ってくる。人間は孤立した動物だということがわかります。なんか悲しいです。

 
 動物たちの他者に対する意識、興味深いです。

2013年5月24日金曜日

国立公園で。。。

 今日もいつものように国立公園に仕事に行っていたのですが、考えさせられることに遭遇しました。

 わたしが車をゆっくり走らせながら、アンテナを使ってヒョウを探しているときに、3匹のウズラのような鳥が道路を走って渡ってきました。もしかしたらわたしの車に驚いて草むらから飛び出して来たのかなと思い、びっくりさせて悪かったなと思っていました。ウズラが落ち着いて草むらに入るまで車を停めて待っていようと思いウズラを見守っていたのですが、後ろからクラクションを鳴らされ、後ろに車がいることに気が付きました。車2台が通るには少し狭い道です。だいたいからして、国立公園内でクラクションをならすことは禁止されているのです。

 わたしは、後ろの車に、「鳥がいるからちょっと待ってくれ」とたのみました。でも、後ろの車は聞きいれてくれず、へらへら笑いながら、ずかずか草むらに入って、わたしを追い越そうとしました。ウズラはさらに驚いて、とび跳ねながら草むらへ。本当に頭にきてしまいました。

 久しぶりに本当に頭にきてしまったので、「動物の邪魔をするなら、公園にくるな!」と叫んでしまいました。。。



 そして、ふっと思ったんです。国立公園や動物保護区って誰のためにあるんだろう。もちろん野生動物たちは国立公園や保護区の中だけに住んでいるわけではないけれど、外にいれば人に危害を加えられる危険もあるし、保護区内が唯一安全な環境を提供できる場所と思っていたけれど、実はそんなことはないんだなと。もしかしたら、国立公園や保護区は動物を見たい人たちが、他の場所より簡単に動物が見れるから、レクレーションのために来る場所であって、動物のための場所ではないのかもしれない。

 それを考えたら、やっぱり人間の傲慢さにさらに腹が立ってきた。地球は人間だけのものじゃないのに、もう、ほぼ人間のものになっている。

 今回のウズラの話ではないけれど、国立公園内でも動物を見に来た観光客のせいで、親と別れて迷子になってしまう動物たちも、かなりの数います。特に、ライオンやチーターなどは、親からはぐれてしまったら1頭では生きていけないので、迷子になることは直に生死にかかわる大問題なのです。ナイロビにある動物孤児院にも、よく親とはぐれて迷子になった動物が引き取られてきます。
野生動物たちは人間においやられて細々と生活しているのに、さらに国立公園や保護区の中でも安堵できないなんて、本当に大変です。昨年は、公園の中に産み落とされたダチョウの卵を、陰ながら観察していたのですが、3日目に盗まれてしまいました。近くに車の轍があり、他の野生動物に食べられたのではなく、人間に盗まれたとわかりました。


 せめて国立公園や保護区の中だけでもマナーを守って欲しものです。



2013年5月23日木曜日

またまたサイが

 先週、ナイロビ国立公園でまたまたクロサイが死んだそうです。。。
今回は歳をとった個体で、年齢のせいで死んだのではないかと言われています。

ナイロビ国立公園には約60頭のクロサイがいます。
そしてシロサイが約20頭います。

ナイロビ国立公園は都市に近く、面積も117平方キロメートルと小規模なので、
管理がしやすい、密猟者から護りやすいということで、
ケニアの各地からサイが連れて来られています。
シロサイはすべて他の場所から連れてこられたものです。
クロサイは、ちょっと内訳まではわからないのですが、
もともとナイロビ国立公園に住んでいた個体と、
他から連れてこられたもの。そして、新しくナイロビ国立公園で生まれたものがいます。

今回、死んでしまったクロサイはもともとナイロビ国立公園に住んでいた個体だそうです。

ナイロビ国立公園では、サイに関しては毎年、頭数を数え、耳を切って個体識別をしています。
他から連れて来られたものは、連れてこられるときに目印がつけられているのでわかります。
なので、ナイロビ国立公園で生まれた若い個体が対象になります。

24時間体制で、管理しているので、近年は密猟者に殺されたという報告はありません。


 4月の終わりに、モザンビークのサイが絶滅したというニュースもありました。
やはり、密猟が原因だそうです。最後に15頭残っていたサイを、
野生動物保護区内で管理していたにもかかわらず、すべていなくなってしまったそうです。

ナイロビ国立公園のサイ、ぜひ生き残って欲しいです。


2013年5月7日火曜日

町の中のヒョウ

ナイロビの町にはヒョウがいるんです。

4月18日、市民から通報がありました。
「夜、近所でヒョウを見かけた人がいる。」
「夜中に、うちの屋根を歩いてた」

現場に行ってみると、家の敷地の中にヤギを飼っているお宅でした。
ヒョウはそのにおいをかぎ分けてやってきたのでしょう。


写真の中央、木の扉になっているところが、夜、ヤギとヒツジを閉まっている場所です。
雨の時期になると、野生動物の獲物を捕るのが難しくなってしまうため、
家畜被害が増えてしまいます。

どうして雨期になると野生動物を捕るのが難しくなってしまうかというと、
第1に、雨が降ると、一面緑の草が茂ります。草食動物たちは草食べ放題の状態になるので、
あちこちに散らばってしまうのです。
第2に、野生動物たちも、たいていの動物が水にぬれるのが好きではありません。
だから、雨上がりのぬれた草の中を、餌を探して歩き回るのが嫌なのです。
そこで、手っ取り早く家畜を襲おうと思うわけです。
なので、雨期は、家畜の被害件数が増加します。



わなを設置しに行くと、たくさんの人たちが見に来ました。
でも、何度もいいますが、ヒョウは人目につきにくい動物なので、
見たことある人は、ほとんどいません。
でも、多くの人は怖がっています。「小さい子供がいるから、襲われないか心配だ」
「うちのヤギが食べられないようにするには、どうすればいい?」
など、多くの質問が寄せられます。

質問に答えて、少しでもみんなの不安を解消するのも、
わたしの仕事だと思っています。

野生動物と人が、お互いを干渉し合わない、適当な距離を保つことが重要です。



住民のみなさんの協力を得て、箱罠を設置したところです。

人と野生動物の共存、難しいけれど、
せっかく大都市ナイロビに貴重な資源が残っているので、
それを誇りに思って、大切にしていければいいと思います。




GPS首輪の装着

先月、4月10日に新たにGPS首輪をヒョウに装着しました。

以前もお話したように、ヒョウはとても人目を避ける動物なので、
漠然と、夜行性だと言われていますが、あまりその他のことがわかっていません。

GPS首輪を装着することで、単独性だと言われているヒョウが、
どのように他のヒョウと社会性を持っているのかなど、
いろいろなことがわかってくると予想しています。




首輪装着の手順は、麻酔をかけた後、
体重・体長の測定、首輪の装着、血液サンプル、皮膚サンプル、獣毛のサンプル採取、
写真の撮影などです。

体重測定


今回、首輪を装着したヒョウは若い雌のヒョウでした。
体の大きさ、体重からみて2歳前後だと思われます。





首輪装着後、捕まえた場所に戻します。あるいは捕まえた場所が国立公園の外だった場合は、
公園内で他のヒョウがあまりいない場所に再度放します。



目隠しをして、暗くしてやるとヒョウが落ち着くので、麻酔がよく効きます。

公園内のヒョウを放す場所に行き、ヒョウが目を覚ますまで観察します。
このとき、ライオンなど、ヒョウに危険をおよぼす動物がいないかなど、
周りに注意を払わなければなりません。

この、ヒョウはなかなか目を覚まさずドキドキしましたが、
約1時間後、少しふらふらしながらブッシュに消えて行きました。

とても青い目が印象的な美人さんだったので、
Samawati=スワヒリ語で青いという名前を付けました。

貴重なデータをありがとう!



死んでしまったヒョウ

 久しぶりの更新です。

3月の初め、夜8時過ぎに急に携帯電話がなりました。
「家の近所でヒョウの死体が2体みつかったんだけど!」
「え?」耳を疑いました。

ヒョウを研究していて難しいのが、彼らが頭がよく人目につかない行動をとるため、
観察したり、捕獲したりするのが大変困難だということ。
だけど、そのおかげで、2009年からここナイロビで調査をしていてヒョウが罠にかかったり、
人に殺されたりしたのは2件。ライオンが10頭近く殺されている事を考えたら、
その数も少なく、さらに範囲も国立公園周辺でなく、もっと広域で2頭でした。

それが、1度に2頭も。。。何が起こったのか。

夜、遅かったために現場に駆け付けることができず、
翌朝早く、死体の引き取りと現場を見にでかけました。








死体は連絡があったとおり2頭でしたが、1頭は腐乱が激しい状態でした。
死体を回収した現場を見に行きました。すごく谷が深いところで、
マサイの人が、牛を放牧に行くときにくらいしか通らないような、
険しいところでした。実際、マサイの人に発見されたそうです。

ヒョウが2頭一緒に死ぬというのは、どう考えても自然じゃありません。
死体を検証してみると、どうやら推定年齢1年の若い兄妹のようでした。
1頭はオスだとわかったのですが、もう1頭はほぼ頭蓋骨と皮しか残っていなかったので、
性別が不明でした。

ヒョウが死んでいた場所のあたりでは、他のヒョウの足跡も見つけることができ、
地形的にも環境的にもヒョウの生息地としてとても適している場所だったので、
そこで、ヒョウが死んでいたことに大変ショックを受けました。



自然に死んだのではないということは、誰かが意図的に殺したといいうことなのですが、
まず考えられるのが毒殺です。
ヒョウは先ほどもいったように、人目を避ける性質なので、
人の前になかなかでてきません。
毒を盛った肉などを放置しておいた可能性が高いです。

ヒョウは若い個体だったので、わたしの考えたストーリーは、
1.生後1年ほどたち、母親と離れている時間が徐々に長くなった。
2.自分たちだけで獲物を探さなければならない。
3.まだ狩りが下手なので、兄弟そろって行動する。
4.狩りをしやすい家畜を襲おうと考える。
5.人家の近くで肉を見つける。

調査でヒョウを捕獲してみてわかったのですが、
大人のヒョウはものすごく注意深くて、
なかなか落ちている肉などは拾わないものだということがわかりました。

若いがゆえに、毒の入った肉にかかってしまったんですね。。。
悲しいことです。

わたしが調査している国立公園にはだいたい10頭から15頭ほどのヒョウがいると
考えていて、そのうち2頭が死んでしまったというのはダメージが大きいです。
おまけに、若いオスは繁殖にとってとても貴重ですから、
この事件は個体数に影響を及ぼす出来事として深刻に受け止めなければいけません。